監督に舞城王太郎!? 乙一も!? こりゃ行くしかねえ!
というわけで、渋谷のユーロスペースに直行しました!
行こうと思ったきっかけは?
学生の頃、いわゆる「メフィスト賞作家」の書くものに好みの作品が多く、舞城王太郎もその作家のひとりでした。「煙か土か食い物」とか「暗闇の中で子供」が好きでした。他の作品は手に取りませんでしたが、当時のぼくに多大なインパクトを残し、一生忘れられない作家になりました。
それと、乙一についても(今回だと本名の安達寛高名義ですね)、ジョジョしか読んだことがありませんが、自主映画を撮っていたことはずっと聞いていましたし、実は小説よりもそっちの方に興味がありました。
唯一、桜井亜美だけがぼくの知識に名前しかない作家さんだったんですけれど、こんな大チャンスは当分ないぞ、と夜の9時前、渋谷の道玄坂に向かったのでした。
ユーロスペースって?
渋谷の道玄坂にあるミニシアターです。ミニシアターと言っても客席は100席近くあるので、それほど「ミニ」な感じはありません(30席ぐらいのところもありますから……)。写真の通りに建物もチョーきれいです。
入口と中はこんな感じ。
3階まで上がって、受付で整理番号と一緒に銀色の小さな冊子(3人の監督の短編小説)を受け取り、会場まで待ちます。結構、ひとが入ってくるくる。劇場のキャパシティには満たないまでも、ミニシアターでこんなにひとが来るのはめずらしいのでは?(偏見)
順番を待って、順次、劇場に入り、上演を待ちます。
Good Night Caffeine - 安達寛高
トップバッターは乙一こと安達寛高監督作品「Good Night Caffeine」。
深夜の病院で、交通事故に遭った恋人の手術の結果を待つ青年(中村邦晃)と、親に疎まれながら本日この世を去った幽霊の少女(庭野結芽葉)と過ごす物語。おもしろいのが、少女は幽霊なのに成仏していない理由が、生前に飲んだコーヒーのカフェインが効きすぎて、というユーモアあるもので、そこで一気に惹かれましたね。
青年は恋人の「生、もしくは死」を待っていて、少女も自分の眠気が来る(=死、成仏)を待っているわけで、過酷な状況にもかかわらず、そんなことなどどこへやらと言わんばかりにふたりで遊んだり会話する姿は、観ていてほんわかするけれど、すぐにふたりは別れてしまうんだな、と悲しくも感じてきます。
女の子を演じた庭野結芽葉は、最近の子役さんにありがちな「ザ・子役」な演技がほとんどなく、すごく真っ直ぐ演じているように感じられて、個人的にはものすごくよかった。かわいいし。
また、青年を演じた中村邦晃は語尾をとにかく伸ばす演技で、それが癖か役作りかはわかりませんでしたが、この雰囲気にはぴったりで、起用された理由は非常に納得でした。ただ、ちょっとおしゃれすぎるかな?
そうなんです、この映画、役者さんも含めてちょっとおしゃれ感がありすぎて、「どう? カッコいい映画撮れてるっしょ?」という作り手のドヤ顔が少し透けて見えたのが残念でした笑
花火カフェ - 桜井亜美
視覚障害者の女性「染谷(小松彩夏)」のアパートが舞台。彼女の恋人(なのかなんなのか)の「宮本(吉村卓也)」との溝に対し、コーヒーを飲みながら思い出を話しながら、宮本との溝が何なのか、また、それを埋めようと行動を起こす話。
冒頭にも書きましたけれど、ぼくは桜井亜美を作家として知りません。だから正直、ほとんど何も期待していませんでしたが、ハッキリ言います。
小松彩夏すげえ!
彼女がいたからこの映画、3作品の中でダントツの出来映えになりました。ロンハーか何かの番組で平成ノブシコブシの吉村に対してブラックメールを仕掛ける仕掛け人としてしか知らなかったので(何年前の話だ笑)、彼女の芝居なんて観たことなかったんですけれど、むちゃくちゃすごいですね。視覚障害者としての顔、女としての顔、様々な表情、声、間が何一つ嘘くさくなく、しかも視覚障害について相当研究した上で演技したと思われます。彼女、グラビアアイドルのはずなんですけど、これほどの実力があるならもう立派な女優ですよ。映像を観て久々に「ぐぬぬ、すげえ役者だ」と感じました。
宮本演じる吉村卓也については、イケメンなんですが、まだどこにでもいそうなイケメンという雰囲気があり、キャスティングとしてぴったりでした。佇まいもいい意味で「ふつうの青年」だったので、こりゃいい俳優を連れてきたな、と。ただ、「宮本」は、視覚障害者に対する感情と、それの表現の仕方が尋常じゃなく難しい役だったと思うんです(個人的には3作品の中でハードルが一番高い役だと思います)。その難しいところをうまく乗り切れなかったのかなあ、と。なんというか、彼の感情がよく見えない。複雑だから、そりゃそうなんですけど、そもそも惚れていたのか、それともヤってしまったから彼女に付き合っていただけなのか、という根本の部分がぼくにはよくわからなかった。なので、回想シーンと現在のシーンで、宮本の心情の変化がほとんど見えませんでした。といっても、たぶんぼくが鈍感なだけだと思います。
そもそも小松彩夏が美人過ぎて、物語として成立していないのがこの作品最大の欠点ですよね笑。お話自体は特筆するようなものじゃないです。ストーリーじゃなくて、役者さんを観るべき映画です。
BREAK - 舞城王太郎
会社の応接室で血塗れになって倒れる黒須(佐藤貴史)。と思ったら喪服姿になって目が覚め、いきなり親族に罵倒され、他の親族を探すよう要求される。住宅街をさ迷い歩き、散り散りになった親族を追いかけているかと思うと、会社に休日出勤しているシーンに飛び、なぜか一緒にいた濱崎(岸井ゆきの)がしきりにちょっかいをかけてきて、ひたすら「大丈夫」と答える黒須……と、説明しようのない変な物語です笑。
冒頭に「intervention」という英単語の意味が活字で表示され、最後にその理由がわかるという構成になっていたり、全体的にミステリー仕立てになっていたり、仕掛けが満載。初監督ということで、自主制作の経験がある前二人と違って、映画を撮り慣れていない(のかそう見えるように撮ったのかはわからないけれど)のはなんとなくわかったものの、明らかにそれを逆手に取った作りをしていて、個人的には一番おもしろかった。前二人があまりにも普通に映画作りをしていたので、「せっかくあまり来ないミニシアターに来たのになあ……」なんてちょっと物足りない気持ちがあったものの、それを見事に解消してくれました。
とはいえ、なんだか煙に巻かれたような結末でしたが……笑。ストレートに、映画で出てきた内容に嘘はないと思っていいのかなあ? でも小説の中でアナウンスもなく突然作中人物の創作に切り替えてそのまま完結させちゃうような作家だし、うーん。
今回の作品は役者さんどうこうっていうものではないんですが、主演の佐藤貴史が結構いい。くたびれた中年男性でありつつもちゃんと感情表現をストレートに吐き出せる俳優です。作中、ずっとイライラしていますが、イライラの原因がそれぞれの場面でまったく違い、かつ溜めてきた感情をちゃんと爆発させたりと、変な作品の主役を見事に演じ切ったと思います。
対する岸井ゆきのについては、この映画ではいいも悪いも言えないんじゃないでしょうか。言ってみればホームズのような立場で、解説をただ捲し立てるだけの役なので。しかし彼女、特別美人ではないですが、雰囲気持ってていいですね。うらやましい。かわいらしい顔のわりにクールな雰囲気を持っているので、違った彼女が観たいですね。
どうでもいいけど、舞城王太郎って、撮影や編集の経験はあるんじゃないかなあ。未経験にしては妙にうますぎると思ったんですが、いかがでしょう。ぼくは映画や映像を体系的に学んだことがないので、なんとも言えませんが……。
シアタートーク
ぼくが行った回では、「BREAK」に出演されていた愛下哲久さんと、今回の企画のプロデューサーの土井美奈子さんが登壇していました。
プロデューサーが登場したということで、今回の企画ができあがった経緯についてお話してくれました。
もともとリアルコーヒーエンタテインメントは代表の篠崎真哉さんと舞城王太郎が意気投合して発足した企業で、舞城王太郎が映画を撮りたいと言いだし、やろうとして企画立案したのが5年前。4年前に「Good Night Caffeine」が完成し、当時9歳だった少女役の庭野結芽葉はいま中学一年生になった、と話がありました。
その1年後(なのでいまから3年前)に「花火カフェ」が完成し、さらにその1年後に「BREAK」が完成した、と。じゃあ残りの1年は何やってたんだ、ということで、3作品の編集や上演する場所との交渉だったり、制作活動にあてていたそうです。
で、もろもろも決まって、そこで上演まで待ち状態……とはならず、観客に小説を配布しようということで急遽、監督の3人に短編小説を書かせて、映画の順番に小説が仕上がって、あとは製本して……。
今度はシアタートークをしよう。司会は? ということで2週間前に声がかかったのが愛下哲久さんで、しかも居酒屋で頼まれたそうです。ひどい会社だ笑。
そんなこんなで30分近くトークがあり、おそらくほとんどのひとが終電間近な時間になったころ、終演しました。
そういえば受付で受け取った冊子ってどんなの?
こんなのです。安達寛高と桜井亜美のふたりが「舞城王太郎」というタイトルで、舞城王太郎は「安達くんと桜井さん」というタイトル。「安達くんと桜井さん」はまだちゃんと読めていませんが、「殺人」とか書いていました。なんでだ笑。
安達寛高の「舞城王太郎」は映画「BREAK」の制作現場を舞台にした物語で、スタッフロールにておそらくほとんどのひとが「おっ?」となった部分について言及があります(これを狙ってそうしたのかわかりませんが)。
桜井亜美の「舞城王太郎」は舞城王太郎が登場してしまった合コンを舞台にした物語で、映画には何も関係しません。これが初・桜井亜美作品(小説)なので、「あ、こういう作風なのね」と納得しました。こりゃ手には取らんかな……。
まとめ
もしDVDを買うかと言われれば、「花火カフェ」をもう一度観たいけれど買いはしないかな……というのが本音ですが、本当におもしろかったです。ぜひ、継続的に企画を続けていってほしいと切に願います。また観たいです。
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