江古田のガールズ演出家、山崎洋平が演出する「みんなのうた」を観てきました。
今日は写真を撮り忘れてしまったので、純粋に芝居の感想をつらつら書いていきます。今回ちょっとネタバレ多めですので、まだご覧でない方はご注意ください。
ちょっとパワーダウンしたか?
おもしろかったですよ、本当に! これはおすすめです! 役者もさすがのレベルの高さだし、セリフは面白いし、展開だってエンタメとしてクオリティが高い。でもね、個人的にはちょっと物足りなかったんですよね。
山崎洋平演出の作品は2014年春の「仮面音楽祭(江古田のガールズ)」と、前回のジェットラグプロデュースの「私はスター」を観たぐらいなので、彼の作品は大して語れるほどじゃありません。
ですが、カラオケボックスの合コンで繰り広げられる愛憎劇を歌とダンスで盛り上げていく、いまの作風の原点のような作品だった「仮面音楽祭」。次に観たのが宝塚を退団した蓮水ゆうやを起用して、作中のミュージカルをきっちり上演しきった「私はスター」。特に「私はスター」は、「仮面音楽祭」で目指そうとした芝居に対する、山崎洋平のひとつの「答え」だったのかな、と感じられるほどにすばらしい内容でした。
だから、今回の「みんなのうた」にはどうしても「私はスター」を超えるクオリティを期待していました。そういう目線で行くと、ちょっとパワーダウンしたように感じてしまったわけです。
嘘がつまらなかった
完成させなきゃ、殺される
真夜中の音楽スタジオに6人のミュージシャンが集められた。目的は、ある新作ミュージカルの主題歌を作り上げること。締め切りはなんと、今夜中!「夜明けまでに新曲を完成させなければ、殺される」そんな絶体絶命の条件の中、はたしてミュージシャンたちは、新曲「みんなのうた」を作り上げることができるのだろうか。
上記は公式のあらすじです。話は上記の通りです。
……と言いたいところなんですが、実はそうじゃなかったということが開始30分ほどでわかります。本当は長谷川純演じる「ボーカル」が「何らかの事情で嘘を吐いて、昔、『恐れ知らーズ』というバンドをやっていた時のメンバーを集めた」ことがさらっと明かされてしまう。
個人的にここが一番不満なところです。だってキャッチコピーになっている「完成させなきゃ、殺される」があまりにもあっさり嘘であることがわかるなんて、ちょっとどうなの? と言わざるを得ません。最後に「嘘」と言われるよりはるかにマシですが、いずれにせよあまり面白味のない「裏切り」でしたね。観客に対して「嘘」とかんたんに伝えてしまうので、「いやいや実は何かあるんだろう」と期待したら、まさかその「嘘」が本当のままという、なんともがっかりな展開……。
ところでこの作品、冒頭のシーンが非常によくできていているんです。近頃よくある「役者紹介」みたいな部分を映像でサラッとやっちゃうようなやり方ではなく、幕が閉じられたままの状態でミュージシャンが次々に登場し、全員が共通の人物に対して電話をしていて、そのやり取りから名前と楽器がわかるようになっています。このシーンの締めくくりに「殺す」というキーワードが出て、幕が開き、舞台が表に現れる……ぼくの下手な文章じゃ情景が見えないと思いますが、ここは一見の価値あるシーンですよ、ホントに。
だけど、冒頭シーンがよかっただけに、シナリオの軸と思っていたものが嘘で残念でした。それと共に、「私はスター」と同じような結末にはなるんだろうけれど、それほどの感動はこの作品では味わえなさそうだな、とも冷めてしまいました。
作中でも「ボーカル」が「そうでも言わなきゃ来ないと思った」なんてセリフを口にしますが、それはもしかすると、シナリオの事情だったのかもしれませんね。
また、この作品の舞台は新宿三丁目にある「高井スタジオ」という音楽スタジオで、時間は深夜です。ロビーが地上で、『恐れ知らーズ』のメンバーが集まったのは地下にある「Aスタジオ」でした。ロビーには「アカペラーズ」という名前の割に風貌がB系なグループが、バンド直前の練習終わりで、知り合いや高井スタジオの店員たちと飲み明かしている、という状況です。
「ボーカル」がそんな彼らを「ヤクザ」と嘘を吐き、ロビーのメンバーには『恐れ知らーズ』のメンバーが「ヤクザ」と嘘を吐いて場を混乱させていくのですが、観客にはすでに全部が嘘であることが伝えられていて、かつ観客側も芝居の進行状況が悪くなるとしか思えないので「ボーカルのやり取りはいつ破綻するのかな」と変な視点で観てしまいました。
案の定、破綻しちゃうんですが、その後の展開は……おそらくみんな想像がつくでしょうし、その想像通りです。やり取りもセリフもおもしろいんだけど、なんだか白けちゃうシナリオになっていたのが、残念でした。
関係性がわからない『恐れ知らーズ』
「どうやって集まったんだ?」というぐらい関係性がよくわからなかった『恐れ知らーズ』。実際に彼らを演じた6人も、それぞれ違う分野で活躍しているので当たり前なんですが、見た目も雰囲気も全然違うので、なぜそこまで惹かれあってバンド結成に至ったのかわかりませんでした。
作中、汐月しゅう演じる「ベース」が「ボーカルの作る歌に惹かれて」という言葉を口にしますが、観客は「ボーカル」が作った曲は一曲しか聞かされていないので「本当か?」と思ってしまうわけです。それ以外にも、『恐れ知らーズ』はすでに解散しているのにわざわざ集められたぐらいのバンドなので、観客としては『恐れ知らーズ』がどんなバンドだったのかを知りたいわけです。上下関係があるのか、みんなの年齢は、何年間活動していたのか、発起人はだれか、なんて。何もわからない。なぜ「ボーカル」が『恐れ知らーズ』のメンバーを集めたのか。これもわからない。たまたま? 人望がなさ過ぎて他に見つからなかった? 想像もいまいち形になりません。
また、もうひとつ残念なことに、「私はスター」では蓮水ゆうやのキャリアまでをフル活用したシナリオがバツグンにおもしろかったわけですが、今回は様々な有名人を起用したにもかかわらず、あまり活用されていない。
長谷川純はこの作品だとただエラそうなだけだし、汐月しゅうはカッコいいけれどこの作品だとカッコいいだけだし、村上純は「芸人」なのに風貌も含めて普通に芝居できてるもんだからこの作品だと「芸人」である彼を呼んだ意図がわからないし、小林光はこの作品だとふつうのひとを演じてしまったせいで彼の芝居のクセが露呈してしまっているし、正直なところ、役者自体がプラスになっていたのは斎藤洋介ぐらいでは? (この作品で起用された理由についての話ですので、役者に対する演技や役作りの批判ではないです! 誤解しないでください!)
いろんな事情があったんでしょうが、もったいなかったですよね。この辺もしっかりしていれば、本当におもしろかっただろうになあ、と帰りながら思っていました。
AKBはすごかった
AKB48の藤田奈那がMCとダンサーとして出演しているんですが、彼女、ダンスがめちゃくちゃ上手です。こんなレベルのメンバーがいるAKB48のレベルの高さを感じました。
これは一見の価値ありです。ふだん、AKB批判ばかりしているひとは、おそらくその意識が変わると思いますよ。
批判どころかほとんど知らないぼくでも「すげえ」って思ったんですもん。
まとめ
ちょっと酷評してるような文章になってしまっていますがそうではなく、おもしろい、レベルが高いがゆえに「ここがんばってほしかったな」という部分が観えてしまっただけで、この作品がつまらないなんてまったく思っていません。
実際、そこらの小劇場でやっているよくわからない芝居に比べれば、はるかにレベルの高い芝居ですよ。
今日の公演は少し席も空いていましたから、当日券は入手できると思います。時間のある方、ぜひぜひ行ってみてください。
0 件のコメント:
コメントを投稿